ヘリコプターマネー(ヘリマネ)

英語名: Helicopter money
分類: 理論

ヘリコプターマネーは、「ヘリマネ」とも呼ばれ、ある日、ヘリコプターが飛んできて、空から現金をばらまくように、中央銀行または政府が対価を取らずに大量の貨幣を世の中に(市中)に供給する政策をいいます。これは、米国の経済学者ミルトン・フリードマンが著書「貨幣の悪戯」で用いた比喩に由来するもので、具体的には、中央銀行による国債の引き受けや政府紙幣の発行などが該当します。

一般に中央銀行は、民間金融機関から国債やCPなどの資産を買い入れる対価として貨幣を供給しますが、一方で金融機関への貨幣供給をいくら増やしても、デフレや不景気などで金融機関の融資が伸びなければ、市中のマネー(お金)の量は増えません。このような状況に対して、世の中のお金の量を確実に増やせる手段として「ヘリコプターマネー」が考案されました。

なお、ヘリコプターマネーを実施した場合、中央銀行のバランスシートは債務だけが増え、それに見合う資産は計上されず、規模によっては債務超過の状態に陥り、その結果、中央銀行や貨幣に対する信認が損なわれる危険性が指摘されています。

ヘリコプターマネーの注目の背景

2000年代に、FRB理事だったベン・バーナンキやジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授などが論じて注目され、その念頭にあったのは、当時、バブル崩壊後のデフレ不況に長く苦しむ日本でした。また、2008年のリーマンショック以降の先進国の景気停滞で再度注目され、今日に至っています。

ヘリコプターマネーの基本概念

ヘリコプターマネーは、政府と中央銀行が一体となった統合政府が「貨幣発行益(通貨を発行している経済が持つ、税金とは別の財源)」を活用して、市中の貨幣を増やし、増えた貨幣が恒久的に残るというものです。

<政策の視点>

・貨幣が経済に追加され、それが回収されないなら、物価は確実に上がるのではないか?
・国債発行が伴う通常の財政政策とは異なり、家計は将来の増税を心配しないですむので、確実に消費するのではないか?
・家計に十分な額の貨幣を支給すれば、確実に支出が増え、名目国内総生産(GDP)が増えるのではないか?

ヘリコプターマネーの実行手法

ヘリコプターマネーは、実際に空からお金をばらまくのではなく、具体的には以下のような手法で行われます。

・政府が直接貨幣を発行する政府貨幣
・財政支出の金融政策によるファイナンス
・政府債務を貨幣の発行により償還する債務マネタイゼーション
・中央銀行が家計に直接貨幣を支給 他

ヘリコプターマネーの著名な賛同者

ヘリコプターマネーは、専門家の間では批判や懸念も多いですが、一方で著名な賛同者もいます。

・ベン・バーナンキ(元米FRB議長)
・アデア・ターナー(元英FSA長官)
・ジョセフ・スティグリッツ(経済学者)
・リカルド・カバレロ(経済学者)
・ジョルディ・ガリ(経済学者)
・マイケル・ウッドフォード(経済学者)
・マーティン・ウルフ(エコノミスト)
・ウィレム・ブイター(エコノミスト) 他

ヘリコプターマネーの効果と弊害

ヘリコプターマネーは、劇薬とも言われ、効果と弊害の両面があります。

<効果(メリット)>

・消費を喚起でき、名目GDPを増やせる可能性がある
・ひどいデフレ不況を克服できる可能性がある

<弊害(リスク)>

財政ファイナンスのため、財政の規律が失われる
・中央銀行の独立性が損なわれ、市場から信任を失う
・貨幣の発行量が行き過ぎると、ハイパーインフレが起こりうる

ヘリコプターマネーの日本への提言

ヘリコプターマネーは、過去に日本に提言されたことがあり、今後も提言される可能性があります。

●2003年:バーナンキ氏の日本での講演

デフレ脱却のために、金融・財政当局が協力し、政府は家計・企業に対する減税を行い、その財源を日銀による国債の買い入れで賄ってみては・・・。

●2003年:スティグリッツ氏の財務省の審議会での提案

デフレ経済の場合は、政府紙幣の発行は検討に値する・・・。

ヘリコプターマネーの前例

ヘリコプターマネーは、前例(近い例)として、以下が挙げられます。

・18世紀の米独立前のペンシルバニア植民地の政府紙幣(発行額が多くなく、運用が控えめであったことから、成功例として評価)
・米国において、南北戦争期に北部と南部が政府紙幣を発行したが、高いインフレになった(特に南部はひどかった)
・日本において、明治政府が最初に太政官札を発行したが、高いインフレになった
・ドイツにおいて、第一次世界大戦後、巨額の財政赤字を貨幣の発行で埋め合わせて、ハイパーインフレの大きな一因になった
・日本において、1930年代に高橋是清蔵相が、金本位制から離脱すると同時に、日銀が国債を直接引き受ける金融緩和策と財政拡張策を実施した(敗戦後に高インフレになったが、日本が大恐慌からいち早く離脱できたとして評価もされている)