ギリシャ危機

読み方: ぎりしゃきき
英語: Greek Debt Crisis
分類: 金融危機

ギリシャ危機は、2010年代に欧州を揺るがせた、ギリシャ共和国の財政危機をいいます。

2009年10月の政権交代を機に、ギリシャの財政赤字が公表数字よりも大幅に膨らむことを明かしたことに始まる一連の危機を指し、また欧州債務危機の発端にもなりました。

ここでは、世界的に注目された「ギリシャ危機」について、簡単にまとめてみました。

目次:コンテンツ構成

2010年のギリシャ危機

2010年1月に、欧州委員会がギリシャの統計上の不備を指摘したことが報道され、同国の財政状況の悪化が世界的に表面化しました。

従来、ギリシャの財政赤字はGDP比で5%程度とされていましたが、新政権(全ギリシャ社会主義運動)下で旧政権(新民主主義党)が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになり、実際は12.7%に達していたことが分かりました(2010年4月に13.6%に修正)。

ギリシャ危機の発生

ギリシャ政府は、膨大な財政赤字に対して、3カ年財政健全化計画を発表しましたが、あまりに楽観的な経済成長が前提であったため、格付会社が相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げ、マーケットではデフォルト不安からギリシャ国債が暴落しました。

これをきっかけに、外国為替市場ではユーロが下落すると共に、世界各国の株価も下落することになり、その後は、危機収束に向けた楽観論と悲観論が繰り返され、マーケットは大きく揺さぶられました。

ギリシャ危機の対応

このギリシャ危機に対して、ユーロ圏諸国の財務相会合において、2010年5月にIMFEUによる「第一次支援(総額1100億ユーロ)」が決定され、また2012年2月にIMF・EU・民間による「第二次支援(総額1300億ユーロ)」が決定されました。

その一方で、ギリシャ政府に対しては、増税・年金改革・公務員改革・公共投資削減等の厳しい緊縮財政策や公益事業等の大規模の民営化が支援金受取の条件として課され、国民に大きな負担を強いることになりました。

2015年のギリシャ危機

2012年以降、ギリシャは、金融支援プログラムに課せられた厳しい条件(緊縮財政等)に取り組み、財政面は徐々に改善していきましたが、その一方で景気は大きく落ち込み、国民の生活はさらに苦しくなり、大規模なデモや暴動が度々発生しました。

チプラス政権の誕生と危機の発生

2015年1月の総選挙では、最大野党で反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)が緊縮疲れの国民の支持を受けて勝利し、チプラス政権が誕生しました。

これによって、一層の緊縮策を求めるEUとの交渉が行き詰まり、ギリシャは6月末に返済期限を迎えたIMFからの借入を延滞すると共に、EUの第2次金融支援も終了しました。

国民投票の実施と支援の継続

2015年7月5日、チプラス政権は、改めて民意を問うため、緊縮財政策を受け入れるか否かについて国民投票を実施しましたが、結果は反対(緊縮拒絶)が圧倒的多数を占めました。

一方で、国民投票は「ユーロ圏に残ること」を前提にしていたため、同年7月13日、ユーロ圏の首脳は会談を開き、ギリシャが財政改革の具体策を法制化することを条件に支援継続で合意しました。

その後、ギリシャ議会は、年金給付の抑制や付加価値税の引上げ、離島への軽減税率廃止などを盛り込んだ財政改革関連法を可決し、同年8月14日、EUは欧州安定メカニズム(ESM)に基づき、3年間で最大860億ユーロを融資する「第3次支援」で合意し、当面の危機が回避されました。

ユーロ圏との再対立と危機の再発・回避

しかしながら、危機が回避されたのも束の間、財政健全化を巡って、再びギリシャとユーロ圏が対立し、2016年10月を最後に融資が見送られ、2017年7月に72億ユーロのギリシャ国債の償還期限を迎えることから、再び財政危機の再発の事態となりました。

この事態に対して、2017年5月にギリシャ議会は、融資を受けるための条件となっていた、年金削減や増税を含む改革法案を可決し、同年6月に85億ユーロの追加融資を受けられることになり、ギリシャは財政危機を回避できました。

ギリシャ危機の問題点

当時、ギリシャは、ユーロ圏の中で経済規模が3%にも満たない小国でしたが、ギリシャ危機が世界を大きく揺るがすことになったのは、同国がユーロの一員であり、その危機がユーロ加盟各国のソブリン債に飛び火し、より大きな「欧州債務危機」となったからです。

また、ギリシャ経済がEUと対立するロシアと地理的に近いことから、ギリシャを孤立化させることは、EUに地政学リスクを生じさせることにもなりました。

<金融支援延長に合意できなかった場合の危機>

・ギリシャ政府の債務不履行危機(国債の利払いや償還に窮するリスク)
・ギリシャの銀行破綻危機(流動性破綻に陥るリスク)
・ギリシャのユーロ圏からの離脱危機(通貨問題の他に地政学リスク)

ギリシャ危機の推移(時系列)

ギリシャ危機は、様々な紆余曲折を経て、完全収束するまでに約10年を擁しました。

・2009年10月:ギリシャの財政赤字の隠匿が判明
・2010年01月:欧州委員会が統計不備を指摘、ギリシャ国債を格下げ
・2010年04月:ギリシャの財政赤字を13.6%に修正
・2010年05月:ギリシャへの第一次支援策決定
・2011年10月:ギリシャ政府が財政赤字削減目標の未達を発表
・2011年11月:ギリシャ首相の国民投票発言で国内外が反発
・2012年02月:ギリシャへの第ニ次支援策決定
・2012年05月:ギリシャ総選挙で連立協議失敗、ユーロ離脱懸念
・2012年06月:ギリシャ再選挙で連立政権発足
・2014年12月:議会で大統領を選出できず、総選挙実施へ
・2015年02月:総選挙で反緊縮派の急進左派連合が勝利、支援4カ月延長合意
・2015年06月:IMFの借入を延滞、EUの第ニ次支援終了
・2015年08月:ギリシャへの第三次支援策決定
・2017年06月:ギリシャへの追加融資で合意、財政危機回避
・2018年08月:第三次金融支援プログラム終了(8年ぶり支援脱却)
・2019年09月:資本規制を全面解除

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